研究者による座談会開催終了のご報告

座敷

6月23日、研究者による記念座談会『瑞泉寺の寺宝にたずねる三条河原の記憶〜豊臣秀次公とその妻子たち』を開催いたしました。出演していただいたのは、ョリッフ・ピア Pia Jolliffe 先生(オクスフォード大学)、北川 央 先生(九度山・真田ミュージアム名誉館長)、山川 曉先生(関西学院大学文学部教授)、黒田 智先生(早稲田大学社会科学総合学術院教授)。最初本堂にて短いながら秀次公と御一族の追悼法要を行い、その後座敷に移って座談会が始まりました。

座談会は、北川先生がコーディネーターを務めてくださり、それぞれの研究発表を行いつつ、それに対してその都度意見や感想を述べ合うかたちで行われました。

一番手は北川先生。元大阪城天守閣博物館の館長で織豊期政治史のエキスパートです。これまでのさまざまな調査の写真や資料を見せていただきながら秀次公の生涯と秀次事件のあらましを紹介。中でも母ともさんが秀次公のために建てたお寺・善正寺秘蔵の秀次像(木造)の調査を行ったエピソードは興味深いものでした。秀次事件から2年後に造られたと思われるその像は、瑞泉寺蔵の秀次公の絵姿によく似ているとのこと。瑞泉寺の絵像は善正寺の木造を基に描かれた可能性があるとのことです。見てみたい!

二番手は山川先生。服飾と染色の歴史の研究をされてきた先生で、今年3月まで京都国立博物館で瑞泉寺が寄託している染織品の保存管理を担当してくださっていた方です。『豊臣秀次と瑞泉寺』展も山川先生が中心になって進められたきました。その今一番瑞泉寺の寺宝に詳しい山川先生は最新の調査の結果報告をしてくださいました。結論から言うと、側室たちが着ていた小袖の裂だとお寺では伝わっている『辞世和歌』の掛け軸の表具裂(瑞泉寺裂)は、江戸初期から中期までの特徴が見られ、秀次公の時代のものとは一致しないという内容ではありました(たぶんそうだろうと思っていたのですが)。ただ、それぞれの裂に残された鮮やかな織りや染めは当時の最高級のもので、着ていた人はかなり高貴な身分であっただろう、とのこと。またクラウドファンディングで修繕した『天皇綸旨』の表具裂の染色(いわゆる辻ヶ花)の部分は桃山時代のもので、男性の着物の可能性がある(と言うことは秀次公のお召し物の可能性もある?)など、興味深い報告でした。

三番手は黒田先生。瑞泉寺蔵の秀次公と御一族の御影画掛け軸と、秀次公の塚の石板を調査された結果の報告をしていただきました。調査は15年ほど前でその成果は論文で発表されていますが、さまざまな画像をプロジェクターで見せながら紹介してくれたのでわかりやすく、会場から感嘆の声が聞かれました。特に側室たちの配置の順と衣装や髪型の違いでのカテゴライズは面白く、また百丸君の生母お辰の前が別格に書かれていて、そのことから御影の軸制作の施主の真相に迫るなど推理小説のような面白さがありました。

最後はピア先生。瑞泉寺で亡くなっている摂津小浜の於亀の前や、出羽最上家の於伊万の前(駒姫)、また真田家へ嫁いだ秀次公の娘・隆清院や、阪南の手毬唄に伝わる小督局(おごうのつぼね)の娘お菊など瑞泉寺には伝わっていないけれど事件を生き延びた子ども達の旧跡をフィールドワークした報告をしてくださいました。「歴史の波に消えていった敗者たちのことをお寺は伝えている」と言うピア先生のお話に深く頷きました。

今回、先生方の研究から「瑞泉寺縁起」や「辞世和歌の軸」「天皇綸旨の軸」「秀次公一党と側室たちの御影」などは150回忌に合わせて整えられた可能性が高いことが示されました。その頃(江戸中期)秀次公と御一族の再顕彰の機運が高まった瞬間があったのかもしれません。秀次公の御影を生前に近い姿を止めると思われる善正寺秘蔵の秀次像を模して新たに作る。「辞世和歌」を一首ごとに手を変えて書きまた華やかな側室達を思わせる最上級の小袖の裂で飾って軸にする。秀次公の時代の高貴な男性の着物の裂を使ってその時の住職への天皇綸旨を表装する。そして秀次公と瑞泉寺(そして角倉家)の歴史を新たに絵と文章で本にまとめ縁起とする。150回忌では、これらを本堂にずらっと並べて法要をしたのでしょうか。京都国立博物館で並ぶ「辞世和歌の軸」を見ながら、「これって安田登さんたちに演じてもらった創作舞台『殺生塚』と同じコンセプトだ」と思いました。「秀次公の御一族」と言うひとまとめではなく、側室ひとり一人にスポットを当てた追悼をしたい。しかもそれをアートの力で今の人たちに伝えたい。そう思って今回一連の430回忌イベントを企画しましたが、300年前の住職たちも同じ様な思いで「辞世和歌の軸」はじめ様々な寺宝を整えたのかもしれないと思いました。瑞泉寺は歴史の波に消えていった人々の「ものがたり」を伝える場所なのだと改めて気づきました。

記念座談会でたくさんの気づきを得ることができました。ご参加いただいた先生方に深く御礼申し上げます。