5月19日、秀次公と御一族430回忌記念奉納芸能・第一弾として柳家さん喬師匠の落語会を開催いたしました。話芸の一流の人に秀次公怨霊譚『雨月物語・仏法僧』を演じてもらうことで、御一族の鎮魂と追善をしたいと思い企画したのですが、見事に目的は達成されたように感じました。
第一部の「お楽しみ」。何が飛び出すかと思っていたところ、江戸古典落語の「天狗裁き」!堂内に笑いが響きました。一席終わったところで中入りかと思いきや師匠おりてきません。そのまま続いて始まったのが「井戸の茶碗」!師匠演ずる登場人物たちの可笑しいまでの爽やかさに感動が広がりました。清廉潔白な武士たちの姿に、秀次公もきっとこんなまっすぐな武士だったのでは、と想像が膨らみます。
そして中入り後、いよいよ『仏法僧』が始まりました。前半と打って変わって堂内に静けさが漂います。次第に場面は高野山山中に。だんだん日が暮れてきて、旅人親子の心細さを感じ始めたあたりで、秀次公ご一党が出現。親子は悪夢の一夜を過ごし、命からがら京の都に戻れば、三条大橋のたもとの瑞泉寺に秀次公の塚を目撃したところで物語はぱたっと終わります。固唾を呑んで聞いていた参加者たちも、今自分がその秀次公の塚の前で聴いていたことに気づき、戦慄が走ったのではと思います。
もともと落語になりにくい題材。無理難題にさん喬師匠は原作に忠実にたどりつつも、しっかり噺にしていただきました。原作を読むだけでは難解なシーンも、師匠の噺で観客の心に届きました。「高野山の夜の情景が見えた」と話してくれた人もいて、みんな親子の感じた幻想風景を体験していたのだと思います。何より、原作ではおどろおどろしいばかりの秀次公と家臣の怨霊たちが、とても品よくかっこいい武将たちに演じられて、怨霊譚なのに不思議と後味が良く、まさに秀次公と御一族の鎮魂と追善になったと感じました。さすが、さん喬師匠の話芸の力。観客と一緒に秀次公と御一族も一緒に笑い、感動してくださっていたと感じました。師匠にお願いしてよかった。
落語終了後、住職が短いながらお経を読んでご廻向をし、参加者全員で秀次公と御一族に手を合わせて解散となりました。ご参加いただいた皆様、おかげさまでいい会を持つことができました。ありがとうございました。